Case Study
導⼊事例
スペシャル対談【後編】

西之島の総合学術調査でドローン活用技術が貢献
~空撮、火山礫や海水の採取、データロガーの設置・回収、ローバーの運搬等~

自然環境研究センター 森 英章 博士 × JDRONE 野口 克也 マネージャー

一般財団法人 自然環境研究センター
上席研究員
森 英章 博士(生命科学)

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株式会社JDRONE
第3サービス部 マネージャー
野口 克也

2013年に40年ぶりの噴火をした西之島では、環境省事業による総合学術調査が続けられています。近年は激しい噴火活動によって上陸調査がままならないため、調査団は約10日間の調査期間を船で寝食を共にしながら、船上からドローンや採水等による西之島の陸上や周辺海域の調査を行います。遠隔での空撮、火山礫や海水の採取、データロガーの設置・回収、ローバー(無人探査車)の運搬・現地での改良など、JDRONEはドローンを活用したさまざまな取り組みで調査を支援しています。

西之島の科学的価値、調査隊の活動、ドローンの活躍などについて、2019年から調査隊長として調査隊を率いる森英章博士とドローンスペシャリストである野口克也マネージャーに話を聞きました。

スペシャル対談【後編】

——— ヘリコプターからドローンへの技術移行について

私たちは環境省の別の業務で、無人島で繁殖する外来種のクマネズミやグリーンアノール(外来トカゲの一種)の防除にも携わっています。
駆除薬をヘリコプターから散布する方法はよく使われていますが、飛行高度が高いヘリコプターではピンポイントでの散布は難しく、切り立った海岸線などでは薬剤の一部が海に流れ出てしまうと、海洋汚染のリスクもあります。

野口

小笠原ではヘリコプターを船に乗せて運搬しますから、かなりの費用がかかりますよね。
駆除剤散布場所までの距離が長いとヘリコプターは直接飛んでいけないので、ヘリコプターを分解して機材として燃料と共に船に乗せていき、地上で組み立てます。

ヘリコプターのパイロット、組み立て・分解・メンテナンスを行うエンジニアと、ヘリコプターは複数人で運用するので、3〜4回の散布となると数千万円規模の費用ですね。

費用もそうですが、ヘリコプターやパイロットを長期間確保するのは、スケジュール的にも難しいようですね。
例えば駆除の時期としては夏が有効な動物でも、機材が用意できる時期が冬しかないとなると、駆除効率が下がってしまって費用対効果が悪くなる可能性もあります。

こうした背景からドローンで「いつでも」「丁寧に」の技術開発を目指して、野口さんには外来種駆除を目的とした薬剤散布方法のご相談をしています。

——— ドローン技術への信頼度について

野口

乗船人数は限られますので、撮影チームは1人だけというケースもあります。
ドローンの操縦はもちろん、自動航行プログラムを作れて、ドローンの組み立てができて、自然環境調査への熱意があって、船酔いに強くて、ある程度の治具も作れて、機材が多少壊れても修理できる様なパイロットが必要です。
もちろん私自身、高いレベルでそうありたいと意識しています。

実は、JDRONEさんにお願いしている仕事のいくつかは、野口さんのスキルでしかできない仕事になりつつあります。
野口さんに倒れられたら調査が成り立たないので、毎回、調査前はドキドキなのです。
ぜひとも野口さんの量産(笑)を、第2の野口さん、第3の野口さん誕生を期待しています

野口さんが唯一無二のアイディアマンでありテクニシャンであることは十分に感じていますが、今後のドローンソリューションのスタンダードを創り出していくために、JDRONEさんには技術の継承や一般化も是非お願いしたいところです。

——— 技術に加えて、想いや熱意の部分も重要

西之島は生態系が少しずつ変化していく過程を、数十年とか百年とか、かなりの長期間で観察していくべき場所です。
そこで調査隊の構成は50代、40代、30代、20代、と各世代のメンバーが参加して、緩やかに世代交代ができるようにしています。

現在の調査隊をメンバーに誘ったときに、「噴火に巻き込まれて、最悪、命を落としても、西之島なら良いかな」と言われたことも(笑)
もちろん命を落としてしまったらダメですが、それくらいの熱い想いも少しずつ次の世代と共有し引き継いでいける調査隊であれたらと思っています。

西之島の調査は、個人責任の研究ではなく国の事業ですので「安全な冒険」である必要があります。
私たちフィールド研究者は自分の目で観て、手にとって、調査をしていくことがモットーでしたが、これからの生態学や保全学の分野では、ドローンのような自分の分身が見て採ってくるモノを上手に活用していくことも大事な手段になると考えています。

これまで見られなかった世界を安全に確実に追いかけていく技術が実現できたら、「安全な冒険」は、もっと広く世の中に広まっていくでしょう。

野口

この「安全な冒険」という部分が、調査研究の分野でドローン導入が進んでいる理由の1つだと思います。
仮にドローンが落下しても、落下地点にヒトがいないのが前提ではありますが、ドローン自体は遠隔操作ですので、パイロットが怪我をしたり命を落としたりする様なリスクは極めて低いです。
ドローンによって安全な調査ができるのは大きなメリットだと思います。

——— 研究者の目の輝き

メンバーは皆、普段は勤務先の大学や研究機関などで、並行して進めなければならないたくさんの研究や講義、そのほかの仕事を抱えています。
しかしながら西之島近辺の海上は簡単には電波が届かなくなりますので、10日間は西之島のことだけ考えていられます。
集中して向き合えるフィールドとして、調査隊メンバーからは好評をいただいています。

調査隊は起きてから寝るまでずっと同じ空間で過ごします。
その中で分野横断的にいろいろな議論ができますし、議論しているうちに次回の計画まで立てられるなど、いろんな化学反応が起きます。
僕はそんな調査船の密室空間がとても好きです。

私は調査隊長ですが、本当は虫だけを見つめていたいのです。
隊長として関係各所と調整や予算管理、安全管理などなど非常に大変です。責任も重く、完全には虫に集中できないんです。
しかしながら西之島の魅力を証明するためには、たくさんの専門家の協力が必要だとわかっています。
100年先までを見越したあらゆるアプローチに向けて、壮大な調査プランを考えられる役割を担えるのは光栄でもあります。
「この先生ならもっと西之島のことを明らかにしてくれるのでは」と、今も次々に専門家を勧誘していますよ。

——— 次へのステップ

例えば蟻のように小さい生物を「どう撮影してくるか、捕獲してくるか」は課題ですね。
ローバー(無人探査車)の導入技術の開発も進めているところです。

野口

現在はローバーをドローンで吊って、調査地まで運んで降ろしています。
それならローバーが自力で飛んでいき、降りて探査し、終わったら自力でまた飛んで帰ってくれば良いなと、少し妄想しています。
無人島での調査は、ドローンやロボットの技術開発の実験場になり得ますよね。

「フィールドロボティクス」と呼ばれている分野があるそうで、これまでは災害現場での活用がひとつの目標でした。
これからは生物や地質の調査にもフィールドロボティクスの技術が使えるのではないかと、共同研究者の皆さんと研究を始めたところです。

調査できたらとても魅力的な場所のはずでも、危険すぎて調査できていない場所は小笠原だけでもあちらこちらにあります。世界中にはきっと数えきれないほど。

絶滅したと言われている生物が残ってくれているかもしれないし、新種の発見があるかもしれません。
野口さん!いつか僕をドローンに乗せてくれないでしょうか。タケコプターみたいに。

野口

人が乗れるドローンも、まったくの夢物語じゃないというレベルまできていますが、まだ運搬する船を選びますよね。
空母みたいな、いわゆる飛行甲板が整備されている船でないと飛ばせないからです。

海上にドローンのランディングパッドみたいなものを浮かべて敷けないでしょうか?
そこにから離陸・着陸して、船で回収していただければ良いかも。

野口

似たようなものは見たことがありますね。
海上でモノを運ぶためのマット、それを何個か繋げて動力を付けちゃえば良いのかも。

話が尽きず、次々とアイデアが生まれていきますね。
ますます、ドローン界とのコラボが楽しみになってきました。

——— 本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

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