Case Study
導⼊事例
スペシャルインタビュー

帰還困難区域の早期避難解除を目指して
復興拠点の放射性物質モニタリングにJDRONEの高度な運用技術が活躍

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA) 眞田 幸尚 博士(理学)

JDRONEでは、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下、JAEA)からの委託により、2011年、東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故による放射性物質の拡散状況を継続的に調査するため、UAV(無人航空機)を使った放射線データの収集・解析をはじめ、地上での歩行モニタリング、ROV(無人潜水機)でのモニタリングなどを実施しています。
今回は、その調査チームのリーダーであるJAEAの眞田幸尚先生にお話を伺いました。

プロフィール

眞田 幸尚 博士(理学)

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA) 福島研究開発部門 福島研究開発拠点 廃炉環境国際共同研究センター 環境影響研究ディビジョン 環境モニタリンググループ グループリーダー

2000年、JAEAの前身である特殊法人核燃料サイクル開発機構に入職。
核燃料物質の再処理施設にて放射線モニタリング機器の開発に携わるかたわら、新潟大学で理学博士号を取得。
福島第一原子力発電所事故の発生直後から、有人ヘリコプターやUAVによる放射性物質モニタリングを通し、データ収集方法、収集データの解析手法の確立、学会での論文発表を通した有識者ネットワークの醸成、関係省庁・自治体等へのデータ提供、一般公開等のプロジェクトを牽引しています。

*受賞歴

2021年12月
Nuclear Engineering and Technology (NET) journal Outstanding Reviewers
2017年9月
公益社団法人計測自動制御学会 論文賞 武田賞
「Multiple Model Approachによる構造化ロバスト制御器設計法を適用した放射性モニタリング無人固定翼機の飛行制御則設計」
2017年3月
一般社団法人日本原子力学会 技術賞
「航空機及び無人ヘリコプターによる福島第一原子力発電所事故により放出された放射性ヨウ素及び放射性セシウムの沈着分布の測定評価」

インタビュー

—— 眞田先生は福島県南相馬市ではなく茨城県東海村で研究をされていたと伺いました。

学生時代は放射性物質とはあまり関係のない分野を学んでいたのですが、核燃料サイクル開発機構に入職後は核燃料物質の再処理施設で10年ほど、放射線を測定する機器開発などに携わっていました。

そんな時に、東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故が起こりました。

—— 事故発生の一報を聞き、どう思われましたか?

「様々な対応が必要になるだろう」と。元々、原子力発電の業界は専門性が非常に高く、それゆえ人材数も限られていますから、自分の知見で出来る限りの協力をしようと考えていました。

そこへ文部科学省からJAEAに事故処理への協力依頼が入り、私を含め様々な部署から担当者が集められました。

私が所属する部門は放射性物質からの放射線測定に関する専門知識を培っていましたので、現在は原子力規制庁からの委託により放射性物質の拡散状況調査の実行部隊として、政策の裏付けとなるデータの取得・解析を行っています。

—— JDRONEで本プロジェクトに携わっているメンバーも、事故当時の所属はドローンやIT関連でなく、原子力関連企業や法人の一員だったと聞いています。

事故当時はドローン自体、あまり浸透していなかったと思います。

私の最初のミッションは、事故によって放射性物質が拡散した地域全体を調査把握することでしたが、未曾有の大事故でしたので地上での放射線量測定では重度の被曝の可能性が指摘されていました。

そこで、有人ヘリコプターによる上空からの測定、つまり空からのモニタリングが必要となりました。空からのモニタリング技術は1980年代に国内でも開発が進められていましたが、事故時に即使えるようには整備されていませんでした。そこで、アメリカの協力により、事故後初めて航空機モニタリングが実施されました。アメリカでは1979年に起こったスリーマイル島での原発事故をきっかけにした空からのモニタリング技術が2011年当時でも進んでおり、それは事故時にすぐに対応できるような体制が組まれていたことになります。

—— 大地震に伴う大津波、それに伴う原発事故が起こるなんて、多くの人は想像出来ていませんでした。

そうだと思います。それで国内での空からのモニタリング技術が実際に使えるほど発展しなかったという面もあると思います。でも事故は起きてしまいました。

そこで、まずは米軍に技術的な教えを乞うことから始めました。

その技術を使い福島第一原子力発電所周辺から有人ヘリによるモニタリングがスタートし、東日本、西日本、北海道と、1年半ほどかけて日本全国における事故を起因とした放射性物質の拡散状況をマッピングしました。

JDRONEのメンバーとは、その頃からのお付き合いです。

お話にあった通り原子力発電事業に携わっておられた皆さんですので、放射性物質や放射線量の把握といった知見をお持ちであり、事故を受けてJAEAの私たちと同じく「自分に何か出来ることはないか」との志もお持ちでした。

—— この調査結果が、後の国の政策の裏付けとなったんですね。

はい。全国的な大まかなマッピングの後は、自治体や地区ごとといった、もう少し細やかなマッピングが必要になります。しかしながら有人ヘリコプターは、航空法の制限で高度300メートル以下は飛行することが出来ません。

放射性物質からの放射線測定は、その発生源に近いほど精度が上がりますので、有人ヘリコプターでの測定手法を、より地上に近づくことが出来るUAV(無人航空機)に応用することにしました。

最初の運用は2012年10月頃だったと思います。検出器や測定器は重量がありますので、UAVは無人ヘリコプターを採用しました。

ヘリ搭載用に検出器や測定器といった機材を開発し、完成後はすぐに空からのモニタリングを始めました。とはいえ、有人から無人ですので、無人ヘリの無線による操縦技術が必要になります。結果、JDRONEの皆さんにはモニタリング技術に加え、無人ヘリの操縦技術も身につけていただく事になりました。

そうした操縦技術に加え、どんな手順、どんな体制で運用するのか検討を重ねたり、無線基地局用の機材と無人ヘリをワンボックスカー1台に収納し、測定拠点をフットワーク良く移動できるようにしたりといった実務的なノウハウを、プロジェクトに携わる全員で築き上げてきたところがありますね。

—— 地上を歩き放射線量をモニタリングする歩行サーベイもJDRONEで請け負わせていただいています。

バックパックに専用の検出器を入れ、それを担いで測定地域を歩きながらモニタリングする案件ですね。

放射性物質は地表面に堆積していますので、地上から測る方が正確ですし測定地域も細やかなんですが、まだ被曝の危険性から立ち入ることが出来ないエリアもありますし、どうしても人間が歩いて行ける場所だけの狭い範囲の測定データになってしまいますよね。その点、無人ヘリは基本的にはどんな場所でも「面」として測定できるのが大きな利点です。そこで、地上で測ったデータと空から測ったデータを比較しながら、無人ヘリで集めたデータの精度を上げていくという作業も行っています。

近年は機械学習を使い、測定値を放射線量などに換算する技術も進み、より効率的にデータ精度を高めることが可能になっています。

—— 上空と地上、加えて湖やダムといった水中でもJDRONEはモニタリング事業に参画させて頂いています。

はい。水中の放射線量は空から測定できないため、ROV(遠隔操作型無人潜水機)を使っています。

ROVは大雑把な潜水では水底の泥を巻き上げてしまい、正確なモニタリングが出来なくなります。このように運用には放射線や放射性物質に対する知識が必要なのですが、そのような知識の蓄積のあるJDRONEさんと協力することでモニタリングを推進することが出来ています。

—— こうした地道な作業で収集し、蓄積されたデータや知見が国の復興政策のベースとなり、加えて一般の方向けにも公開されています。

JAEAの「放射性物質モニタリングデータ情報公開サイト 」では、地図と重ね合わせる形で放射性物質の拡散、つまり地域の汚染状況を視覚的に把握できます。また、「根拠情報Q&A 」では、調査結果と科学的根拠に基づいて放射性物質拡散に関するさまざまな疑問にお答えしています。

最近では自治体さんのウェブサイトでも積極的にデータを活用頂いていて、例えば「大熊町環境情報サイネージ」の「生活行動パターン」では、町内での移動・行動に基づく被ばく量を分かりやすくシミュレートでき、加えてその被ばく想定量と一般的な生活での被ばく量との比較もできます

—— データ収集・解析からリスクコミュニケーションに移行しつつあるんですね。

私たちとしては、モニタリングデータを可視化し公開するだけでは不十分だと考えています。データを、「どんなことをすれば、どれだけ被ばくするのか」といった具体的な情報に変換して提供していかなければ、その土地で生活したり、訪問されたりする方々にとっての安全性は判断できないと思います。

食事の際のカロリー計算に似ていると思います。健康のためにカロリーの摂り過ぎに注意するのと同じ様に、放射線も過剰に浴びなければ健康に問題はないことが分かっています。そこを適切に把握できる仕組みを作っていかないと、放射線への理解が進まず、ただただ事故の記憶と共に「放射能は怖い」という話で終わってしまいます。

—— これからの取り組みのひとつですね。

はい。しかしながら、私たちの1番のミッションは残された帰還困難区域の解除に向けて、活動を加速させていくということです。国の方針は2030年頃までに解除完了ですが、解除するためには、さまざまな放射線防護的対策が必要となります。その対策の裏付けとなるデータ収集・解析の実行部隊である私たちの活動が、正確かつ、早く進めば進むほど解除も早くなります。

避難されている方々が一刻も早く、元いた土地に戻れる様に。そうした強い使命感を持ってJDRONEの皆さんと共に取り組んでいます。

—— JDRONEからも強い使命感については聞いています。実際の仕事ぶりや技術についての御評価をお聞かせください。

さまざまなUAVを安全に的確に運航出来るJDRONEの技術は、本プロジェクトに欠かせないものとなっていますし、UAV運用は原子力発電所に関する防災や安全担保技術のひとつとしても注目されています。

使命感については、どんな業務に対しても前向きに、震災からの復興に向けてモチベーション高く対応いただいていると感じています。事故発生から10年が経過し、様々な周辺環境や状況の変化もあります。それらの変化に柔軟に対応していただきながら知見を積み重ね、安全運航への努力を継続していただければと思います。

—— 安全については、特に肝に銘じ取り組む所存です。

加えてJDRONEさんやトーテックグループさんに期待したいことは、技術の社会実装です。空からのモニタリング技術が実際に使えるほど発展しなかったという事故当時の状況をご説明しましたが、現実的な話としてビジネスとして成立しない技術は後世に残っていかないものです。

有人ヘリに始まる環境モニタリングというシビアな業務の中で培われたJDRONEの測定技術や安全運航技術は、国内ではトップクラスだと考えていますし、飛行時間に関しては群を抜いていると思います。

UAVはこれから育っていくべき分野ですから、福島で培った技術を是非、原子力関連はもちろん、他の様々な分野でビジネスとして発展させていただきたいですし、大きな期待をしています。

—— ありがとうございます。
当グループは、ITソリューション事業とエンジニアリングソリューション事業をベースとして事業展開をしてきました。本プロジェクトのドローンソリューションに加え、そうした分野でも眞田先生やJAEAの皆様のお力になれれば、ひいては震災からの復興の一助になればと考えています。

これからは、研究者である私たちの作業をいかに効率化するか、研究成果や調査結果をいかにアウトプットするかということも、重要なテーマになってきています。良い仕組みがあれば是非、ご提案ください。

—— 貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました。

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