Case Study
導⼊事例
スペシャルインタビュー

青木ヶ原樹海でドローンが夜間パトロール
人命保護に必要なサポートと保護に向けた迅速な情報共有

山梨県 福祉保健部 健康増進課 様

JDRONEでは青木ヶ原樹海においてサーマルカメラ搭載ドローンによる巡回を実施しています。
これは上空から自殺企図の疑いがある方の発見を行い、ドローンによる声かけから警備会社や警察による保護につなげるという山梨県の取り組みの1つです。
当社は監視対象地内に自動充電ポート付きドローンを設置しました。
ドローンは事前に設定された監視ルートを自動巡回し、ドローンに搭載した高性能カメラからの映像をもとに担当者が遠隔監視を行っています。監視から自殺企図者を発見した場合は、声かけを行うレスキュードローンが発見現場に急行するとともに、警備会社や地元警察へ保護を依頼しています。
今回は山梨県と担当者へのインタビューを通して、本案件の意義と当社が関わる内容について御紹介します。

※インタビュアはJDRONEのグループ会社であるトーテックアメニティ株式会社の広報担当が務めました。

インタビュー

※以後、略称  山梨:山梨県ご担当者様(知見課長/今宮主査)JD:JDRONE(眞壁グループリーダー)

■ プロジェクトについて

——— 【無人航空機を用いた青木ヶ原ふれあい声かけ業務】について御説明をお願いします。

山梨

富士山の北西麓に位置する青木ヶ原樹海一帯は、日本屈指の自然公園として国内外を問わず、日中は多くの観光客の方にお出でいただいています。

しかしながらその神秘さからなのか、夜間は偏った認識で訪れる方も多数いるのが現状です。

具体的に問題となっているのは、違法改造車両による集団での爆音走行や肝試し的な危険行為等ですが、特に自殺企図については、メディアを通じて広がったネガティブなイメージが根強く、そのステレオタイプを払拭するのに非常に苦慮しています。

JDRONEによるパトロール中の空撮

自殺企図者と思われる方に向けては、人命保護の観点から思いとどまっていただけるようなお声がけを行い、適切なサポートや保護につなげるという取り組みを、地元自治体と協力して10年以上に渡り実施しています。プロジェクト名に「ふれあい声かけ」という言葉があるのは、そのような意図を反映したものです。

JD

ドローンによる特殊空撮を得意としていたヘキサメディアがJDRONEと合併前に、県内の甲州市で夜間の果樹盗難抑止に向けたドローンパトロールを実証実験として行いました。その報道をご覧いただいた山梨県の担当者様から「青木ヶ原樹海の夜間パトロールに活用できないか」と、お問い合わせいただいたことが本業務に携わることになったきっかけです。

山梨

ドローンでできること、できないこと、関連する法律などの情報を教えていただきました。

甲州市の事例については、「夜間の監視においてはドローンに搭載されたサーマルカメラを通じてヒトの体温を検知し、その動きで行動確認ができる」といった具体的な監視内容を伺いました。

山梨県 福祉保健部 健康増進課
知見 課長

——— プロポーザルを経て、JDRONE提案を選択した理由を教えて下さい。

山梨

JDRONEさんは実際に現地に足を運び関係先からの情報収集や現地状況をしっかり把握するなど、業務についてはもちろん、人命保護の業務に携わる意味についても深くご理解いただいたた上でのご提案だと感じました。

もちろん、仕様要件も十二分に満たしていました。夜間の樹海で人命を保護するという目的に向けた要件、つまり夜間や目視外での飛行実績が豊富であること、3機のドローンを組み合わせて自動で巡回を行うこと、使用する機材性能を熟知しているといった技術的な面ですね。

加えて、自殺企図が疑われる方を発見した場合には、地元の警備会社や警察と連携した初動体制なども練られていたため、「これならばスムーズに夜間パトロールが行えるのではないか」と考えました。

山梨県 福祉保健部 健康増進課
心の健康担当
今宮 主査

JD

提案前の事前調査として、日中のパトロールを担当している警備会社にて区域の特徴や声かけの内容、命を絶とうとしている方の行動パターンや発見率など貴重なお話を伺うことができました。

こうした過去の知見を取り入れられたことで、当社のパトロール区域や飛行ルート、発見時の初動体制などをより明確にイメージいただけるご提案ができたと思います。

日中のパトロールをされている皆さんは、ドローンによる人物発見について、実は半信半疑だったんです。過去、不幸にもシビアな現場に遭遇してしまった方もいらっしゃいますし、地元住民として区域を熟知されていますから当然だと思います。そうした皆さんに敬意を払い、十分にコミュニケーションを取りながら、夜間のドローン運用を始めました。

こうした当社の姿勢を認めて頂けたのか、現在は細やかな現地情報や飛行ルート・飛行時間帯へのアドバイス、地元警察まで含めた密なお力添えをいただいています。

株式会社JDRONE
第1サービス部ヘキサメディアグループ
眞壁 グループリーダー

■ 現在の運用・稼働状況へのご評価

——— 運用中のご心配や不安などはございませんか。

山梨

青木ヶ原樹海は原生林ですので、人工林や果樹林とは違って植生が不規則で、木々の隙間も非常に狭いのです。その隙間を縫って、しかも上空から人物を見つけられるのか正直なところ少し不安だったんです。しかしながら遊歩道を進んでいただくと分かるのですが、想像以上に日光は差し込むので、上空からの探知に期待を持ちました。

JD

テスト飛行で実際にパトロール飛行と夜間空撮を行い、樹海のような場所でも動物の熱をしっかり検知し、その内容から人物か動物かを判定できるということを実証することができました。

その一方、苦戦している部分もあります。特に電波です。実際にドローンを飛ばしてみて電波状況が予想以上に厳しいことが分かりました。ドローン自体は自動航行ですので問題ないのですが、電波が木々にさえぎられる箇所が多く、電波の不安定さでドローンの挙動が不安定になったり、撮影中の映像を監視人が確認する受像機までの伝送にも時間がかかったりします。また電波が途絶えることで挙動制御ができなくなったり、伝送が止まったりしてしまっては監視になりませんから、当初予定していたルートを回れないケースも出てきます。可能な限りエリア全体をカバーできるよう、関係する皆様と相談・検討を重ねながらルート設定をしています。

山麓で標高が上がりますので風は強く、当然ながら木も多いですし、皆さん、意外に思わるかもしれませんが電線も道路沿いを中心に多いため、ドローンを安全に飛ばすための操縦技術的な難易度は高いですね。このプロジェクトを遂行しながら、JDRONEも多くのことを学ばせていただき、パイロット達も鍛えられていると感じます。

飛行申請については地権者の方の許可をいただく必要がありますが、山梨県様にあらかじめ調整をしていただいているので、ストレスなく事務手続きを進めることができています。

山梨

青木ヶ原樹海は貴重な観光資源ですし、暴走行為や観光客向け施設の破壊や落書きといった迷惑・違法行為抑止のための夜間防犯という意味でも、地権者の皆様は非常に協力的です。飛行申請などの法的手続きについても、JDRONEさんは慣れているので安心しています。

警備会社、地元警察への情報共有もしっかり行っていただいていますし、現地で拝見する限りは、パイロットの技量も申し分ないものだと感じています。プロジェクトを遂行いただきながら、業務改善の提案も随時いただいており、重要な業務を任せられる事業者としての信頼度は高いですね。

■ プロジェクトの効果

——— プロジェクトのゴールについて、お考えをお聞かせください。

山梨

「青木ヶ原ふれあい声かけ業務」については、まず自殺企図者を発見し保護したうえで、安全に御帰宅いただくことが大前提です。このようなプロジェクトを継続することで、プロジェクト対象地域からは自殺企図者が見つからなくなるだろうということは、日中の声かけ業務の実績からも推測できます。山梨県は令和5年の発見地ベースでの自殺死亡率が全国ワーストです。本プロジェクトでは青木ヶ原樹海での自殺企図者の減少が、県内の自殺死亡率の低下に少しでも貢献することを期待しています。

現実的には、夜間にドローンが樹海の奥深くで企図者を発見しても、駆けつける警備会社担当者や警察官に転倒などのリスクが生じます。よって駆けつけが容易な国道や県道に近い場所で早期に自殺企図者を発見し保護できればと思っています。

JD

自殺企図者を発見できれば成功なのか、問題なくドローンが飛行できれば成功なのか、当社としてのゴールをどこに設定すべきかという課題がありますね。

本案件の前提にパトロールエリアの拡大もあります。パトロールエリアの拡大は、ドローンの飛行エリアの拡大を意味しますので、いかに効率的に飛行し自殺企図者を探すのかという課題にも取り組んでいます。例えば、上空からのサーマルカメラ撮影では、二足歩行のヒトは「点」として映り、四足歩行の動物は細長い「面」として映ります。

当社では本案件で蓄積したこうした撮影データをAIの教材として利用しようと計画しています。将来的にはドローンが見つけたヒトの動きから自殺企図者か否かをAIが自動判別し、保護が必要とAIが判定すれば、そのまま警備会社や警察に通報するような省人化システムを作れたらと考えています。しっかりと報告書にまとめて今後の事業展開に活かせるようにしたいと考えています。

——— 本案件における自殺企図者発見の頻度は高いのでしょうか。

山梨

青木ヶ原樹海は、自然公園法に基づきヒトやクルマの立ち入りが終日に渡って制限され、草木や溶岩の採取や持ち帰りも禁止されているのですが、自殺企図者を含む人物の発見件数は多いですね。

ただ人物の発見といっても様々なケースがあるのです。

本案件では、地元自治体・団体からの情報などをベースに、レスキュードローンの出動件数を見積もっているのですが、実際には夕刻スタートの樹海散策中に迷い、日が暮れてしまい戻れなくなってしまった観光客の方、日没後に肝試しや動画配信用の撮影目的に、あえて樹海に入り込んだ若者グループなど、夜間の青木ヶ原樹海は自殺企図者以外の方がかなり多いという実態が、今回のプロジェクトを通じて分かってきました。

そして、そういった方々はスマートフォンのライトだけを頼りにしている場合が多いのです。特に遊歩道から外れた場所は遭難のリスクが高いですから、そういった方々にも注意喚起をしていきたいと考えています。

■ プロジェクトへの反響

——— 数多くのメディアによって報道されましたが、反響の大きさについてお考えをお聞かせください。

山梨

プロジェクト公表後、もともとメディアへの現地説明会は行う予定で、多くの反響もいただけると期待はしていたのですが、想像以上の反響でした。メディア向け説明会には、国内の新聞社、テレビ局の方に多数ご参加いただき、説明会の様子が各メディアで報道されると、それに追随する形で海外メディアからも複数のお問い合わせをいただき、現在でもその反響は続いています。

夜間の樹海をドローンが監視していると広くメディアで報じていただけることと合わせて、商店街や住宅の監視カメラが防犯に役立っているように、本プロジェクトは自殺や犯罪の抑止に役立つと考えています。加えて自治体におけるDXやIoT活用のヒントにもなると考えています。山梨県議会を対象とした見学会の際には、議員の皆さんからも多くの熱心な質問をいただきました。

JDRONEさんには、メディア、議員、そして私たち行政職員といった立場の異なる多数のオーダーにも柔軟にお応えいただいています。

JD

今回のプロジェクトでは、ドローンによる夜間監視業務について積極的に広報活動を行うことも提案に組み込んでいました。山梨県様からもお話がありましたが、一般の方が「青木ヶ原樹海」と聞いた時に、真っ先にネガティブなステレオタイプが想起されてしまう状況を打破したいとの御要望に応えた形です。

また山梨県様は、新しい技術の活用に積極的と伺っています。ドローンについても、植生モニタリング、災害現場支援、公共施設の破損調査、地形測量、物資運搬など様々な取り組みが検討・推進されています。

■ ご期待やご要望

山梨

今年度の成果をベースに、これからも、安定的に、効率よく、なおかつ経済的に事業を継続するための方策を一緒に検討していただければと思います。

また本案件に加えて、将来に向けたテスト飛行も計画いただいているため、想定している効果を検証するお手伝いをいただければと思います。

——— 最後に、改めて青木ヶ原樹海の魅力をご紹介ください。

山梨

青木ヶ原樹海は、約1200年前にできた原生林です。

森にとっての1200年は短い時間ですので、まだまだ若い森であり、動植物の生命力に満ちています。

富士山の噴火による溶岩流上に形成された約3,000ヘクタールの土壌の厚さは10数cmしかありませんが、苔の保水力を元に木々が生い茂り、木洩れ日と相まって神秘的で非日常的な自然空間が広がり、トレッキングやハイキングにうってつけです。

青木ヶ原樹海は富士箱根伊豆国立公園に属し、貴重な自然環境や動植物の生息環境が保存されている中で、「富岳風穴」「鳴沢氷穴」「西湖」といった観光スポットも点在しています。

富岳風穴と鳴沢氷穴の内部は、1年を通して気温が0~3度に保たれており、猛暑が続く昨今は、冒険感覚で散策しながらの「涼」スポットとして、特に内外からの注目をいただいています。

ぜひ一度、お越しください。

——— 本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

お客様情報

山梨県について

人口:788,935人(2025(令和7)年1月現在)
面積:4,465.27km

関東甲信越(広域関東圏)の1つとして東京都の西に位置し、首都圏整備法における首都圏の一角をなします。県名は、律令制下の甲斐四郡の1つである「山梨郡」に由来するものです。急峻な山々に囲まれた内陸県であり、富士山や富士五湖、八ヶ岳、南アルプスなど、自然景観に恵まれた観光地が多数存在します。
気候と地形を活かしたブドウやモモといった果物栽培、それらを活かしたワイン製造、富士山麓の恵みからの宝飾製造や大量の水を必要とする半導体関連製造なども盛んです。

福祉保健部 健康増進課 心の健康担当について

山梨県民の健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)は、男女ともに全国トップクラスです。健康増進課では、生活習慣病予防、栄養改善指導、難病対策、がん対策、歯科保健など、県民の皆さんの健康づくりを幅広く推進しています。
今回インタビューにお答えいただいた「心の健康担当」では、精神障害者の福祉・医療・保護、依存症対策、自殺対策、引きこもり対策など、さまざまな側面から心の健康の保持・増進を図っています。

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