Case Study
導⼊事例
スペシャル対談【前編】

西之島の総合学術調査でドローン活用技術が貢献
~空撮、火山礫や海水の採取、データロガーの設置・回収、ローバーの運搬等~

自然環境研究センター 森 英章 博士 × JDRONE 野口 克也 マネージャー

一般財団法人 自然環境研究センター
上席研究員
森 英章 博士(生命科学)

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株式会社JDRONE
第3サービス部 マネージャー
野口 克也

2013年に40年ぶりの噴火をした西之島では、環境省事業による総合学術調査が続けられています。
近年は激しい噴火活動によって上陸調査がままならないため、調査団は約10日間の調査期間を船で寝食を共にしながら、船上からドローンや採水等による西之島の陸上や周辺海域の調査を行います。
遠隔での空撮、火山礫や海水の採取、データロガーの設置・回収、ローバー(無人探査車)の運搬・現地での改良など、JDRONEはドローンを活用したさまざまな取り組みで調査を支援しています。

西之島の科学的価値、調査隊の活動、ドローンの活躍などについて、2019年から調査隊長として調査隊を率いる森英章博士とドローンスペシャリストである野口克也マネージャーに話を聞きました。

スペシャル対談【前編】

——— 自然環境研究センターの西之島での取り組みについて

新しい島に生き物はどのようにやってきて、どのように生態系が作られていくのか。
今の地球でたった1か所、そうした疑問に答えられる場所が2013年に噴火した小笠原諸島の西之島です。
この科学的価値を明らかにした上で保護管理をしていくという国の方針に基づき、環境省業務の受託者として私たちは総合学術調査に取り組んでいます。

毎年、想定外の大地の変化に驚かされつつも、生物相のスタート地点から確実に変化を追いかけるべく行ってきた試行錯誤は、もう10年近くなります。
総合学術調査は、生物についてはもちろん、地質・水質・大気といった周辺環境も含めた調査ですので、様々な専門家とともに実施しています。

しかしながら西之島は2013年以降の10年のうち9年、つまり、ほぼ毎年噴火している状態です。
当初は専門家たちが西之島に上陸し、実地調査やモニタリング機器の設置と回収、周辺海域での潜水調査など、生身の人間による調査を検討していたのですが、現在の活発な火山活動状況下では困難です。

加えて西之島は最寄の有人島から130kmも離れています。
万が一事故が起きてしまったら即、命の危険につながることから、調査隊長としては「どうしたらもっと安全に西之島の変化を追うことができるのか」と日々悩んでいるのです。

そんな中で、近年めざましく技術が発展しているドローンに活躍してもらおうと思いつき、JDRONEの野口さんに相談し始めました。

——— 野口マネージャーの西之島への関わりについて

野口

2015年のNHKさんの空撮スタッフとしての関わりが最初です。
その頃は西之島周辺4km範囲の立ち入り禁止制限区域があったり、ドローン自体も遠距離が飛べなかったりといった時期でしたので、無人ヘリを使っていました。
そのうちにドローンがどんどん進化し、ドローンの役割が増えていきました。

私が野口さんと出会ったのは2017年の南硫黄島の調査ですね。
この調査は10年に1回ほどしかチャンスがないのですが、私は幸運にも上陸調査メンバーの一員として参加することが出来ました。
その時に野口さんもドローン班の一員としていらしていました。

野口

NHK撮影班の一員として参加し、調査隊の皆さんが上陸する様子や、急斜面といった調査隊が観測できないところをドローンで空撮していました。
例えば地上から見上げても把握できない鳥の活動は、ドローンで鳥の上から空撮すると、その鳥の営巣する様子が「手に取る様に分かる」といったこともありましたね。

こうした様子を見ながら「僕らフィールドワーカーだけじゃできないことも、ドローンならできるんだ」と衝撃を受けましたね。
南硫黄島ではとても良い調査が出来たこともあり、その翌年、上陸が難しい西之島での調査をどうしようかと考えていた時に「野口さんに頼りたい!」とお声がけしました。

ちなみに上陸調査が出来ないこと自体は、非常に悔しいのですよ。
研究者として、自分の目で確かめる調査に勝る調査はないと思っていますから。
一方で「人間が上陸や潜水をせずとも調査可能な仕組み・技術を開発できれば新しいフィールドが増えるんだ」と考えると、進めずにはいられません!

——— 上がるドローンの活用度

火口周辺などの危険な場所は、西之島ではドローンやロボットを中心とした調査に切り替えていく方向を考えつつあります。

元々自然環境調査には、人間が足を踏み入れることで生態系を乱してしまうリスクもあります。
例えば、調査員が不用意に営巣中の鳥に近づくと、鳥が巣を離れてしまって、卵が温められなくなる可能性も。
また万全の準備はするとはいえ、調査員が虫や種子を持ち込むリスクもあります。

人間が近づかない手法の開発が、生物への影響を最小限にできることも重要視し、新しい調査技術の開発に協力をいただいているところです。

野口

西之島に上陸できたのは2019年ですね。

そうですね。
結局、本格的な上陸調査ができたのは2019年、たった1回だけです。

野口

鳥ならドローンのカメラで写りますが、森先生の御専門は「昆虫」ですよね。
大きさ的にドローン空撮ではちょっと厳しいです。

鳥は撮影だけでも毎回色々な事が分かり、新しい発見も。
いつも鳥の専門の先生の姿を横目に見ながら、僕は悔しがっています(笑)

野口

虫がカメラに映らないので、ドローンによる次の一手を検討しました。
最初はサンプリングですね。
火山の研究者の方たちと「どうやったら火山礫を採取できるか」という話をしていた時、ちょうど会議室に掃除機があって。
ドローンの積載能力が上がっていた時期でもあり「ドローンに掃除機、ぶら下げて飛べますね」と。
実際に飛んで火山礫を吸ってみたら「吸える!吸える!」と、皆さんが喜んでくれました。
今では「フライング掃除機」って呼んでいます(笑)。

以前の調査では、とりもち(鳥黐)を使ったけれど、火山礫が1個取れるか取れないかだったというお話をされていましたね。

野口

とりもちだと、噴火口や溶岩からの熱で溶け落ちてしまうのですよね。

掃除機をドローンにつけて飛ばすという発想はブレイクスルーでしたね。
あの瞬間、「もしかして虫も吸えるかも」と思っちゃいました。

野口

西之島の「鳥の声を録音したい」「温度変化を記録したい」といった研究者それぞれの御要望に応える形でロガー運搬フックを製作、ドローンでロガーを運び、指定箇所に置いてきたこともありましたね。

調査機器を運んでもらえるようになったことも、調査できるアプローチの方法が増える点で嬉しい技術開発でした。
でも、ロガーは回収が難しいですよね。
年に1度しか現地に行けないですし、西之島の大地は不安定で、尾根や浜が削れて置いたロガーの場所自体がなくなってしまいますから。
噴火の連絡が入ると人工衛星の撮影画像を確認していたのですが、日々溶岩に覆われていく様子が見えた末、「僕のロガーが飲み込まれた」と頭を抱えたこともありました。

野口

西之島は3ヶ月くらいなら半分ぐらいの地形は残っていますが、1年経つと、ほぼ原形をとどめていないですよね。

噴火活動による溶岩や降灰、有毒ガスだけでなく、絶海の孤島ならではの風や波の影響も大きく受けますし、植物がない島では雨が降る度に濁流が発生します。
そう考えると、鳥も虫も、よく生き残っていますよね。
私は2019年の大噴火時に「生物は絶滅した」と思っていました。
「僕が生きているうちには、生物は何も定着できないのでは」と思ったくらいの大きな噴火でしたからね。

野口

生物のたくましさですよね。

まさにそう思います。
私たちが今まで知ってきた科学と違う、新たな発見が見えてきている西之島は、この想定外が本当に面白いです。
「自然環境が完全リセットされた海洋島で生物は海を越えてどのように生態系を形作っていくのか」の観察は、大きな陸地から離れたことで簡単には他の生物も人にも影響が出ない、長い科学史の中でも唯一の場所です。
そうした意味でも西之島には非常に価値があります。

——— 西之島は特別な存在

野口

私自身、「世界中のどこを探しても、西之島でしか見ることができない」という希少価値もあり、「単なる業務で撮る」「ドローンを飛ばす」ということ以上のものを感じています。

記録班隊員として調査に参加しているNHKさんも、西之島の価値を御理解されて記録撮影に取り組まれていると思います。
私も記録撮影の手助けとして、例えば地形が変わり続けているのが分かる様に、地層がはっきり認識できる場所を撮るとか、鳥の個体数の増減のビフォーアフターを説明できる様に撮るとか、何を伝えるべきかを理解し考えないと撮れないカメラアングルを意識しています。
ドローンパイロットとしてのスキルに加えて、研究者の皆さんが欲しい情報として西之島の知識を増やしていますね。

野口さんは、激変する西之島の地形も覚えていられるのがすごいです!
加えて、調査隊のメンバーは「ドローンでここまで出来るのであれば、次はこういうことをしてみたい」という相談をしますよね。

例えば、野口さんに3Dプリンターで作っていただいた採水器。
2021年からは海域調査も始めたのですが、火山活動の影響で船が西之島に近づけず、研究者は島の沿岸部にはどんな生物がいるのか直接の観察ができません。
そこで、採取した海水から生物のDNAで調べるために「沿岸部の海水を汲んできて欲しい」と野口さんに相談しました。

野口

当時は西之島から少し距離のある海域で、船の上からバケツで採水していましたよね。

そうです。
本当はもっと陸に近いところで採水したかったのですが、警戒範囲で近づけなかったのです。
野口さんに相談した時は「考えてみます」というお答えでしたが、次にお会いしたら完璧な採水器が出来上がっていました。
私は「ドローンでバケツを吊り下げてくれさえすれば」と考えていたのですが、要望の1歩先を行かれました。

野口

採水器下部は重りになっていて、海水につけると浮力で蓋が開きます。
それで、ドローンが採水器を引き上げると蓋が閉まる仕掛けにしました。
重りの量が重要で、自宅のお風呂場で重りを足しながら実験していました。
ドローンのカメラで採水器の水没がわかるように、採水器の上部を黄色く塗るアイデアも採用しました。

コンセプトをお伝えするだけで、期待以上のものが出来上がってきたのですから、調査隊一同、驚きました!
ドローンの安全な飛行や的確な撮影に加えて、こうした技術やアイデアをお見せいただけるところも、つい、野口さんに頼ってしまうところですね。

ちなみにこれまで、この採水器による採水成功率は100%です。
実際の調査に使える時間は限られていますから、効率が良い調査は非常に大切です。
そこも含めてご理解いただいているからこそ、ただのバケツじゃない採水器を作ってきてくださったのですよね。

野口

ドローンパイロットからすると、船の上からドローンを指定海域に飛ばして水面に少し採水器を触れさせるだけなので、意外と楽ですよ。

さすがです!
沿岸部の、特に海中の小さな生物群については、このドローン調査がなければ研究実績を残すことができなかったはずです。

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